days of cinema, music and food

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悪党−小沢一郎に仕えて


出版前から楽しみにしていた本ですが、何とよもやの品切れでどこの書店に行ってもありません。
増刷を待ってからの購入となりました。


まず目を引くのが大袈裟なまでの黒帯。
小沢の威圧的な目線がこちらに突き刺さります。
こりゃ「悪党」だよなと納得しますよね。
しかし帯を取ると…
あれ、意外にも微笑んでいます。

ま、人相が悪いのは変わりないですが…


このアートワーク同様に、本書は小沢一郎の意外な素顔も紹介した本なのです。


著者の石川知裕議員は、政治資金規正法違反で裁判中で、かつての小沢一郎秘書。
石川議員への検察の10時間にも及んだという酷い取調べに関しては、拙blogでも触れた事があります。
小沢本は親も反も含めて色々と出ていますが、「小沢軍団」と言われるその秘書の目から見た本は初めてです。
その小沢像が抜群に面白く、すらすら読めてしまいました。
いやいや、余りに面白くて読み終わるのが勿体無く思ったくらいです。
その小沢像がTVや新聞が流すものとの落差がかなりある一方で、ネットや雑誌での像に近いのも、現代日本のジャーナリズムを象徴している​ようでした。


厳しい秘書生活の描写も興味深いものですが、とにかく良くも悪くも小沢像の強烈さ。
これが​本当に面白い。
余り書くとこれから読む人の楽しみを妨害するので差し控えますが、例えば賞味期限切れのレトルトカレーが捨ててあるのを見付けると怒り出します。
その理由が単なるケチではなく(まぁケチというのもありましょうが)、「まだ食べられるかどうか、自分で食って判断しろ」と言うものなのですね。
昨年辺りから小沢はニコニコ動画Ustream等の中継に登場するようになり、生の発言を見聞き出来るようになりました。
記者クラブ偏向報道に嫌気がさして記者会見をしなくなった小沢が、上杉らの自由報道協会の記者会見には出るようになりました。
都合の悪い事はインタヴューや記者会見でもはぐらかしますし、また抽象的な質問にはかなり回答する気が起きない、というのも面白い。
一方、具体的な政策等の明確な質問には明確に答えています。
ラジカルで冷徹な政治観も含め、確かにこれだけ個性的な政治家は他に居ないよな、と思わせる存在感がありました。
その中で私が強い印象を受けたのが、この人の価値観の中心には「自分で考えて自分で責任を取れ」というものなのです。


それは秘書に対してもそう。
元鳩山弟秘書だった上杉隆もあちこちで書いていますが、その軍団も検察が勝手にイメージを決め付けたものと大きく違うのが面白い。
小沢から秘書達への指示は普段は厳密なものは余り無く、無愛想でぶっきらぼう、後は自分で考えろというもの。
しかし大事なここぞという場面、例えば選挙等になると厳密な指示になる。
自分を支持してくれる外部の人に対しては気遣いもマメですが、一方身内にはかなり厳しい。
元秘書が議員に立候補するときも、援助は殆どナシ。
このメリハリが興味深い。
で、この人、「自分で考えろ」を国民にも求めてい​るんですね。
余りこういう面ってバイアスが掛かりまくったTV新聞では報道されないので、面白いものです。


贅沢も知らず、普段は居酒屋チェーンの庄やや街の中華屋を利用したり、とかも興味深いですが、本書の肝は小沢像・小沢軍団だけではなく、何故検察があれ程までに執拗に小沢を付け狙ったか、という点への考察でしょう。
小沢起訴への布石として起訴された著者ならではの実感が篭っていて、非常に興味深いものでした。
同時に、先日紹介した古賀茂明著『官僚の責任』にも通じる問題が浮き彫りにもなっていて、この国のシステムが非常に危ういものだと思わせます(もっとも、古賀は小沢嫌いのようですが)。


本文中は「小沢」「小沢一郎」と呼び捨てだし、最後の対談を「対決」と銘打っているにも関わらず、いざ対談になると論理も哲学も、圧倒的に小沢の存在感が大きい。
いくら文章で小沢の事を突き放して書いても、石川議員はヒヨっ子なんですね。
これもまた印象的。


面白くもお勧めの本です。

悪党―小沢一郎に仕えて

悪党―小沢一郎に仕えて