days of cinema, music and food

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The Little Stranger


朦朧体で描かれたゴシック・ホラーを、まさか現代の小説で読めるとは思いもしませんでした。
サラ・ウォーターズの今のところの最新作『エアーズ家の没落』の事です。


第二次大戦直後、かつては栄華を誇った名家エアーズ家も広大なハンドレッド領主館に閉じ籠り、苦しい生活を送っていました。
幼少時代、両親がそこで召使をしていたという中年の独身男性ファラデー医師は、往診を切っ掛けに親しくなり、屋敷に通うようになります。
しかし徐々に屋敷では怪異が起こるようになり、不穏な空気で満たされて行くのです。


ウォーターズの文章は相変わらず吸引力があり、作品世界に引き込まれました。
会社最寄り駅を乗り越した事もあったくらいです(/▽\*)
ジャンルとしてはホラーなのかミステリなのかさえ判然としない内容ですが、ドラマや恋愛もの(但し辛口)としても読める多面振り。
この小説の素顔が何かは、読者の読み方によって変わると思います。
ヴィクトリア朝小説、屋敷小説(というジャンルもあるらしい)、メイド小説としても読めるくらい。
兎に角、細緻に描かれた屋敷内外の描写が圧倒的で息苦しい程迫って来て、屋敷そのものが主人公であると言っても過言ではありません。
濃密で息苦しくなるのは、語り部であるファラデー医師の心理描写の緻密さ振りもそう。
ウォーターズ作品の常で、うじうじとした登場人物でもあるのですが、このリアルさは凄い。
この心理描写もあって、作品に独特の恐怖感と緊張感が醸し出されたのです。


本書の原題は『The Little Stranger』。
一体誰の事なのか?
これがまた意味深で解釈が分かれるし、場合によっては読者にとってのミスリードともなり得ます。
様々な解釈で読める、サラ・ウォーターズらしいミステリアスなエンタテイメント文学の秀作なのです。


面白かったし、やはりサラ・ウォーターズは信用出来る作家です。
次回作も楽しみです。


エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)