days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Shibumi


トレヴェニアンの名作『シブミ』上巻を読了しました。
小学生のときから気になっていた本です。
だって翻訳コーナーに「シブミ」ですよ!?、「シブミ」。
作者はトレヴェニアン…って苗字?名前?
後年、覆面作家と知り、本書が『アイガー・サンクション』と共に代表作と知るのでした。


スピルバーグの秀作『ミュンヘン』でも描かれたベルリン五輪襲撃テロ。
それに対する報復を狙ったユダヤ人3人組が、事前に察知したCIAの親組織・母会社(マザー・カンパニー)襲撃を受けて2人が殺害されます。
生き残った1人の若い女性は逃亡し、叔父の知り合いであるバスク地方に住むニコライ・ヘルという中年男性に助けを求めます。
ヘルは少年時代に過ごした日本で「シブミ」を会得した凄腕の殺し屋。
日用品を武器に使う「裸・殺」の技の持ち主でもあります。
そのヘルを狙って母会社の暗躍も動き出します。


こう書くと小池一夫の劇画みたいなトンデモ日本登場の、フジヤマ・ゲイシャ路線に思えますが、そうではありません。
上巻の殆どを占める、第二次大戦下・後の日本の様子が緻密に描かれて驚嘆しました。
日本人が読んでも殆ど違和感がありません。
若きのヘルが過ごす日本の様子が相当にマニアックで、話が進まなくても面白いくらいです。
作者は若い時に日本在住だったそうですが、相当に取材もして書いてあるのでしょう。
と同時に、生々しさもあって、これは凄いと思いました。
東京大空襲も含めて総じてアメリカの行為のみならずアメリカ人にすら批判的で、その素性を「商人」と決めつけて批判しています。
往時の日本人を精神的なものを尊ぶ、対照的な存在としていますが、戦後のアメリカナイズされた日本にも辛辣です。
中々に鋭い視点もあって面白かったです。


小説としては最後まで続きが気になって面白いのは間違いありません。
が、構成がかなり異色でした。
上巻の殆どを占めるのが前述した若きヘルの日本での青春時代。
下巻になるとようやく現代になりますが、最初の100ページはヘルと相棒である豪傑ル・カゴとの洞窟探検になります。
ここも日本の描写同様にマニアックで緻密、相当に力が入っていました。
それからようやく母会社との対決になりますが、ここはアクションというより謀略もの。
で色々あって、結局ヘル自らが殺し屋としてのスキルで活躍するのは最後の20ページくらいでした。
冒険小説として名高いようですが、一般のアクションもしくは冒険小説と思うとかなり「???」になる事請け合い。
やはり1番面白いのは、日本文化の解説や洞窟探検のくだりのマニアックな筆致なのでした。


この小説が古臭いとしたら、女性たちの描写でしょう。
殆どの女性はヘルとセックスし、魅了されている、あるいは魅了されてしまう、という役ばかり。
現代の小説だったらこうは書けないでしょうね。
『シブミ』と和風のタイトルでありながら、アメリカならではのマチズモも顔を出してしまうのでした。


シブミ〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

シブミ〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

シブミ〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

シブミ〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

昨年『犬の力』をご紹介したドン・ウィンズロウが、若きヘルを主人公にした『サトリ』を今年頭に出版しましたが、そちらも読んでみましょう。
しかしウィンズロウと本作のトレヴェニアンは、かなり作風が違いますが、さてどうなっていか。
楽しみです。
尚、『サトリ』はレオナルド・ディカプリオ主演の映画化が発表されています。

サトリ(上) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

サトリ(上) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

サトリ(下) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

サトリ(下) (ハヤカワ・ノヴェルズ)