遺体―震災、津波の果てに
3.11.を扱った本を読了しました。
著者はジャーナリストの石井光太です。
本の舞台になっているのは、津波で壊滅的被害を受けた岩手県釜石市。
そこでの遺体の捜索、収容、安置、検歯、保存、火葬…と、遺体に携わった人々を小説体で描いたノンフィクションです。
著者あとがきによると、100人以上もの人々にインタヴューし、綿密な取材を経たとか。
複数の登場人物による群像ドラマが、冷静だが温もりのある文体で描写されています。
先の震災後、多くの死者を数字でなく、個人個人として扱おうとする大手メディアの報道を目にするようになりました。
これも同様の試みの1つと言って良いでしょう。
ただ大手メディアとの大きな違いは、報道ではすっかり隠されてしまった「遺体」を直視している事です。
本が進むに連れて時間も進行するので、遺体も腐敗して行く様が描かれています。
腐敗は老若男女関係ありません。
老人であっても、働き盛りの海の男であっても、妊婦であっても、赤子であってもです。
その冷徹な現実も扱っているので気軽に読み進められる本ではありませんが、だからこそ遺体を大事に扱おうとする人々に感動します。
むごたらしい遺体であっても、「よかったな、これで家族のもとに帰れる」と声を掛ける捜索隊員。
妊婦の遺体に「ママのお陰で、お腹の中にいた赤ちゃんは寒くなかったんじゃないかな。この子はとっても感謝しているはずだよ」と語りかける安置所管理人。
彼らは普段は市井の人ですが、緊急時だからと任命され、または名乗り上げた人々です。
無残な物質となった遺体に尊厳を与えようとする彼らの言動には、敬意を払いたいと同時に感動しました。
そして思ったのは、もし自分だったら…というもの。
もし自分が捜索隊員だったら。
もし自分が葬儀場の関係者だったら。
もし自分が遺族だったら。
もし自分が遺体だったら。
そんな様々な「if」を突き付けられ、考えさせられる本でした。
読んで良かったと心から思える本です。
お勧めです。
- 作者: 石井光太
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/10
- メディア: 単行本
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