days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

ナカコナイト


ヒーローもしくはアイドルとは、人それぞれと思います。
私の小学校高学年から中学生の間のその1人が、当時映画ジャーナリストだった中子真治でした。
小学生の時分で既にSF映画好きだったので、図書館にあった大型本『超SF映画』も躊躇なく借りました。
これは19世紀から1980年、そう『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』までのSF映画を網羅した大著です。
分厚く巨大な体躯は迫力満点の映画資料本。
日本未公開作品も数多く紹介され、オリジナルポスターの数々も眩しかった。
この何年か前に、今は無き三軒茶屋書店で見つけ、母親に買ってもらった、学研のハードカバー本『SF探検』と同じ中子真治の本だったのです。
この『超SF映画』は何度も何度も借りました。
数千円以上もする本でしたので小学生にはとても手が届かない本だった、というのもありますが(あるいは奇想天外社は既にこの世に無かったからか)、買う事は無く、借りて読んでを繰り返していました。
図書館との往復の自転車のカゴが、重く感じたのを覚えています。
この本で元祖『キング・コング』をアニメーとしたウィリス・H・オブライエンや、その弟子レイ・ハリーハウゼンの名前を覚えました。
多くの少年と同じくプラモデル好きでもありましたので、SF映画に登場するメカのミニチュアにも魅了され、その延長かモンスターにも惹かれていきます。
特撮マンに心惹かれるのもSF少年にとっては自然の流れでしょう。


そんな事もあってからの、小学5年も終わりの春。
とある晴れた日曜昼間の家族との買い物のとき。
共働き家庭だったので、毎週日曜昼間は、家族皆で三軒茶屋まで食料の買い出しに出掛けるのが常でした。
マクドナルドでビッグマックを買ってもらうのがご馳走だったのです。
そして本屋大好きだった私にとっては、書店で書棚を眺め、背表紙の題に色々と想像を膨らませるのも楽しみの1つでした。
三軒茶屋の茶沢通り沿いにあった今は無き書店(木製の本棚と床が印象深い)で、いつものように書棚を楽しんでいるとき、平積みコーナーでふと目に留まった本がありました。
黒地に真っ赤な文字で「SFX」。
土星を映し出した壮大な惑星直列の写真と、その下にはその撮影裏側と思しき写真が配置されています。
書名は『SFX映画の世界』とあり、著者は中子真治でした。
SFX?何だろう。
『超SF映画』の著者の本だから、またSF関連の本かな。
そう思って手に取り、開いてみると、何とこれは映画の特撮の裏側を紹介した本ではありませんか!
これは僕の理想の本だ!
これぞ僕が求めていた本だ!
即座にそう思い、早速両親に買ってくれるようせがんだのです。
書籍購入に関しては甘かった両親のお蔭で(特に父からは、読みたがっている本は買い与えるように、と母に言ってあったのもあって)、無事にこの本も私のものになったのでした。


帰宅後、むさぼるように『SFX映画の世界』を読みました。
SFXとはSpecial Effectsの口語的略称とあります。
ミニチュア、オプティカル合成、風雨などの効果、特殊メイク、スタント…。
有名無名の映画の写真や、それらの舞台裏写真の数々に魅了されつつ、技術専門用語も含めたカタカナ単語が多くて読みにくい文章に手こずりながらも、一気に読んでしまいました。
特撮に関する好奇心を刺激され、満たされ、まさに私にとっての理想の本だったのです。
この本でディック・スミスリック・ベイカーロブ・ボーティンらの名前を憶え、あるいはデヴィッド・アレンやジム・ダンフォースといったアニメーターを知り、『駅馬車』のスタントマン、ヤキマ・カナットらの存在を意識するようになったのです。
各分野の歴史紹介から先人達、そして当時最新鋭の技術を駆使したSFXピープル達への敬意と愛情に溢れた文章は、私の心を捉えて離しませんでした。
小学校の卒業アルバムでは、大人になったらモデルアニメーターになりたい、等と書いているくらいですから、その影響たるや分かろうというものです。


SFXという言葉は一気に流行り、映画の宣伝コピーにも使われるようになります。
中子真治その人も一躍ときの人となり、実際に映画に使われたミニチュアや小道具を使った展示会のプロデュースも手掛けるようになりました。
『SFX映画の世界』は何度も繰り返し読み、ときには小学校にも持って行くくらいでしたが、元々製本がやわかったからか、ページがすぐに取れてしまいました。
買い直してもらおうか…等と贅沢な事を考えている内に絶版になったと知ります。
続刊の『SFX映画の時代』『SFX映画の世代』も当然のように買い、何度も読みましたが、『世界』程熱狂的になれなかったのが正直なところです。
後に「SFXは誤りだ。視覚効果はVFX(Visual Effects)が正しい筈だ」と言われるようになり、今ではSFXという言葉と見かける機会はぐんと減りましたが、それでも中子真治の業績は讃えられてしかるべきでしょう。


その後暫くして中子真治の名前をまるで聞かなくなり、一体何をしているのだろうか…と思っていると、映画ジャーナリストを引退し、故郷の飛騨高山にて実家を継いでおもちゃ屋を経営しているとネットで知りました。
そちらにはプレデターターミネーターのエンド・スケルトンが展示してあるので有名だそうです。
お店のサイトではブログを更新していますが、それ以外は目立った執筆活動をしていないようです。


最近、中子チルドレンという言葉をTwitterで知りました。
中子真治の著作や活動に熱狂し、大いに影響を受けた人々を指すようです。
私もその1人に違いありません。
その私にとって夢のような企画が近々開催されます。
題してナカコナイト。
ブレードランナー』の撮影現場に居た唯一の日本人ジャーナリストでもあった中子真治その人に、当時の熱い空気やエピソード等を語ってもらおうという企画。
5月24日(木)に新宿ロフト プラスワンにて開催されるのです。
これを逃したら一生後悔するのは確実です。
当然ながら私も行きます!
同じくチルドレンである友人べっくと一緒なので、これもまた楽しみです。
それまでに本を読んで予習復習しておかないと。
ナカコチルドレンの皆さん、会場でお会いしましょう!


SFX映画の世界

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SFX映画の時代―SFX cinematic illusion 2

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SFX映画の世代―SFX cinematic illusion:3 (SFX CINEMATIC ILLUSION 3)

SFX映画の世代―SFX cinematic illusion:3 (SFX CINEMATIC ILLUSION 3)