days of cinema, music and food

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The Exorcist


先日の週末一泊キャンプの合間に、『バトル・オブ・エクソシスト──悪夢の25年間』を読了しました。
1973年公開の映画『エクソシスト』の製作過程や公開当時の評判、余波等を、監督ウィリアム・フリードキンと原作&脚本&製作者ウィリアム・ピーター・ブラッティの意見の相違を中心に描いたノンフィクションです。
邦題はテリー・ギリアムシドニー・シャインバーグの『未来世紀ブラジル』の編集を巡る闘いを描いた傑作ノンフィクション、『バトル・オブ・ブラジル』からの頂きですね。
本書の著者はマーク・カーモード。
エクソシスト』に魅了され続けた映画ジャーナリストです。
同作DVD及びBlu-ray Discに収録されているBBC製作の傑作メイキングにも関係しているそうです。


そのメイキングが収録された『エクソシスト』特別版DVDでも、フリードキンとブラッティの対談が収録されていましたが、この2人はかなり対照的です。
身振り手振り激しくまくし立てる強烈個性のフリードキンは、根っからの映画監督。
余計な説明はしないで、映像と演技で観客に解釈させれば良いと突き放す主義のようです。
一方のブラッティは、もそもそと喋る作家根っからの作家。
内容を受け手に説明したい主義のようです。
特にブラッティは自己の信仰にも関わるのですから、観客に誤解を与える事無く伝えるのは重要事。
しかしフリードキンは聞く耳持ちません。
製作者なのに若き監督に振り回されるブラッティの様がどこか可笑しいのですが、何しろ相手は若造でも、「ハリケーン・ビリー」の異名を取る男ですからね。
撮影中に空砲ぶっぱなして俳優をおびえさせて撮影に緊張感を持ち込んだりと、周囲に居る人間からすると大変なのです。
本書には登場しないものの、最初作曲担当だったラロ・シフリンの音楽を聴いて「こんなのクズだ!」とテープを駐車場に放り投げてクビにしたりと、大騒ぎを引き起こすようです。
兎に角フリードキンは思い込んだらこうと、典型的な猪突猛進型人間なんですね。
だから公開25年後になってブラッティの言う通りだと、ころっとかなり雰囲気の違う版を出してしまいます。
何で心変わりしたのか、天才の気まぐれなのでしょうが、そこもまた面白かったです。


私自身は初公開版の方が好きですが、監督自らが言うように冷たいのは確か。
『ディレクターズ・カット』はラストも含めて温かになっていて、ジェイソン・ミラー演ずるカラス神父、つまり善が悪に勝ったのは確実に分かるようになっているものの、サブリミナル・ショットなどは明らかにやり過ぎでした。
この人、優秀な製作者に締め付けられる環境が丁度良い監督なのではないでしょうか、と思いました。
新作も観たいですけれどもね。


私にとって『エクソシスト』は、ホラーというより宗教映画として見応えがある映画です。
信仰とは何か。
神とは何か。
絶対悪に対峙するとき、周囲の人間はどのように反応するのか、といった問題を掘り下げた見応えのあるドラマだと思います。
読後はDVDからBlu-ray Discに買い直したくなりました。
本書は詳細な注釈と共に映画のメイキング本、記録本として面白い。
今や大御所の映画評論家ピーター・トラヴァースは、若い時分にこの映画のメイキング本を共著で出していたんですね。
エクソシスト』にご興味ある方は本書を読むと、裏側での対峙も分かって興味深いものになるでしょう。


本書を読んで初めて知ったネタも多かったのですが、特に大きな情報は『エクソシスト』は信仰をテーマにした3部作の第1部だという事。
第2部は『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』、第3部は『エクソシスト3』となっています。
第2部は中子真治・編著の名作『超SF映画』でも紹介されていて、そこで初めて知ったのですが、まさかシリーズだったとは。
同作と『エクソシスト3』は共にブラッティの手によって映画化されています。
これもまた、興味深い映画ですね。


バトル・オブ・エクソシスト──悪夢の25年間 (Kawade Cinema Books)

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