days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Ray Bradbury Dies at 91


未見で溜まったBlu-ray Discを観るべく、三管の電源を入れてから、Twitterのタイムラインを見ていたら。
アメリカのSF/ファンタジー作家のレイ・ブラッドベリ死去のニュースが飛び込んで来ました。
91歳との事。
まだまだ執筆活動を続けていただけに残念です。


私がこの作家を知ったのは小学校高学年のとき。
先日行ったナカコナイト中子真治・編著『超SF映画』で紹介されていた、ジャック・スマイト監督、ロッド・スタイガー主演の『いれずみの男』に興味を持ったのがきっかけです。
3編から成るオムニバス映画について書かれていて、その内容に興味を持った私は、5年生の遠足から帰宅後、さっそく今は無き三軒茶屋書店に向かったのでした。
で買ったのが映画の原作本である短編集『刺青の男』。

刺青の男 (ハヤカワ文庫 NV 111)

刺青の男 (ハヤカワ文庫 NV 111)

甘美な詩情とグロテスクが同居した数々の短編に衝撃を受けましたね。
全身にびっしりと刺青がされた男と知り合った青年。
その刺青には1つ1つ物語があり、未来から来たという老婆に彫られたのだという。
肩甲骨のあたりに1箇所空白があり、そこは覗き込んだ者の未来が見える、と男は言った。
青年が刺青を覗き込むと1つ1つが物語を語り始める…


幻想と怪奇、詩情と冷酷さが入り混じった作風にすっかり魅せられた私は、学校の読書感想文の課題も収録されていた短編『万華鏡』にしました。
相当に入れ込んだのですね。
『万華鏡』は、宇宙船の破裂で宇宙空間に放り出された数人の宇宙飛行士たちの物語。
宇宙服を着ていた彼らは、互いに離れ離れになりながら通信で会話をしていき、1人また1人と宇宙の塵となって行きます。
生と死が甘さと厳しさでもって描かれていて、未だに大傑作だと断言しましょう。


怪奇色の濃い作品が多い中、最後を飾る『ロケット』も静かな感動を呼び起こす傑作です。
金持ちしか行けない宇宙旅行
主人公であるイタリア系の父親は、一生懸命貯金し、ようやく家族の内1人だけが行けるだけの額を貯めます。
しかし妻子達は皆譲り合って、結局誰も行かない事になります。
廃品回収場で働いている父親は、ある日、ロケットの実物大の模型を迷った挙句に買います。
貯金を全て使い果たして。
彼が家族に贈った素敵なプレゼントとは。
これも素晴らしい短編ですので、機会がありましたら、是非お読み下さい。


次に読んだブラッドベリの本は『火星年代記』です。

火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

火星探検による人類の進出と、滅んでいく火星人たち。
怪奇趣味も満載ですが、詩情もふんだんなのがブラッドベリらしい。
年代記としても短編集としても読める傑作。
これも感想文書きましたね。


『太陽の黄金の林檎』も傑作短編集です。

太陽の黄金の林檎 (ハヤカワ文庫NV)

太陽の黄金の林檎 (ハヤカワ文庫NV)

ジョゼフ・ムニャイニのグロテスクでシュールな挿絵も素晴らしい。
表題はエネルギー枯渇の地球から飛び立ったロケットが、太陽の表面をすくって…というファンタジー色の濃いSFです。
タイムトラベルして恐竜狩りをするという、映画『サウンド・オブ・サンダー』原作の名作『雷のような音』も収録されています。
また本作には映画史に大きな影響を与えた短編も収録されています。
ゴジラ』の元ネタはアメリカ映画『原始怪獣現る』で、当時の東宝プロデューサー田中友幸はそれを認めています*1
その原作はブラッドベリの名作短編『霧笛』。
太古から深海底で眠っていた恐竜の生き残りは、灯台の霧笛の音で仲間だと思い、何年もかけて海を上ってくる。
そして仲間だと灯台を抱きしめるが…という哀しき短編。
映画はそんな雰囲気は微塵もない怪獣映画になってるけど、同作のモデルアニメーションを担当したレイ・ハリーハウゼンは、ブラッドベリの幼馴染なんですよね。


『十月はたそがれの月』も良かった。

10月はたそがれの国 (創元SF文庫)

10月はたそがれの国 (創元SF文庫)

怪奇趣味も含め、印象深い作品が多いです。
ふと思ったのですが、私の暗い作品好き、ファンタジー好きは、彼が原点なのかも知れません。
でも精神状態が健康でないと暗い作品も楽しめないから、やはり心身ともに健康でいないと!


初期短編を集めた日本オリジナル短編集『黒いカーニバル』。

黒いカーニバル (ハヤカワ文庫 NV 120)

黒いカーニバル (ハヤカワ文庫 NV 120)

若い頃ならではのパワーとグロテスク趣味が炸裂して、どれもが面白く、強烈でした。
後年の傑作長編『何かが道をやって来る』の元ネタとなった短編も収録されています。


長編では『華氏451度』が1番有名でしょう。

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)

書物が禁止された管理社会で読書する喜びに目覚めた男の物語。
そのような社会で物語はどのように伝えられて行くのか。
名作です。
フランソワ・トリュフォー監督で映画化されていますが、そちらは私は未見。
メル・ギブソンフランク・ダラボンによる企画も次々頓挫していますね。


長編小説も有名ですが、私にとっては短編の方が印象深かったように思います。
でも下馬図書館から借りて来た『何かが道をやってくる』は怪奇ファンタジーの傑作。
原題『Something Wicked This Way Comes』の意味を父に確認し、邦題と比べたりもしたものでした。

何かが道をやってくる (創元SF文庫)

何かが道をやってくる (創元SF文庫)

田舎町にやって来たカーニバル。
だがそれは邪悪な団長Mr.ダークが率いていたのだ…という少年冒険ものの赴きある長編ファンタジー
これも傑作です。
ジャック・クレイトンによる映画はTVで観てがっかりでしたけど…


文字通り万華鏡のように華麗な作品を数々ありがとう。
『万華鏡』のラストのように、ブラッドベリは流れ星になったのだと思うようにします。

*1:石上三登志による