days of cinema, music and food

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Wanted


マーク・ミラーはコミック界のロックンローラーです。
読む者を挑発し、牙を剥き、爪を突き立てます。
後には苦味が残り、読者は現実世界と、そこに身を置く自らに疑問を呈する事になるのです。


映画にもなった、そのマーク・ミラー作、J・G・ジョーンズ画のアメコミ『ウォンテッド』を読了しました。
ずっと翻訳を待っていたので楽しみにしていたのに、あっという間に読んでしまい、とても勿体無い気がします。


現実社会では冴えない若者が実は伝説的な殺し屋の息子であり、その潜在的才能を見込まれ、秘密結社で特訓の末に暗殺者として目覚めて行くというプロットは映画と同じです。
しかし、その世界観や物語後半の展開は映画と原作とでは全く異なります。
このコミックが最高に強烈で、最高に過激で、最高に陰惨なのは、その独特の世界観にあります。
世界は実は1986年にスーパーヒーロー達(無論、あの赤マントの鋼鉄の男を含む)を殲滅したスーパーヴィラン達によって支配されており、それ以前の人類の記憶は抹消され、歴史は書き換えられていたのです。
但し、読んでも誰も信じないコミックに、それ以前の歴史が書かれているのでした。
主人公の父はスーパーヴィランの伝説的な殺し屋で、何者かに暗殺されてしまっていました。
その謎を追う主人公も、やがて暴力的で残酷な自我に目覚めて行くのです。


キック・アス』のマーク・ミラーが作とあって、軟弱な若者がアンチヒーローになっていくというプロットは、あちらとこちらで同工異曲でした。
面白いのは、主人公は明らかにエミネムですし、師匠で恋人になる殺し屋フォックス(映画ではアンジェリーナ・ジョリーが演じていました)は、キャット・ウーマン姿のハリー・ベリーなのです。
もっともあのベリー主演の『キャット・ウーマン』は、本作の後の映画ですが、こういう偶然も面白いですね。
ともあれ、カラフルで個性的なヴィラン達の造形もあって、出来は『キック・アス』よりこちらの方に軍配が上がります。
特にシットヘッドというヴィランは名前も凄いが正体も凄い。
何にでも変身可能な彼は666 人の悪党からひり出された人糞であり、何でそんなのが頭脳を持つ悪党になったのかは分からぬものの、やはり超汚いのです。
しかも厄介な事に、人糞なので銃で撃たれても大丈夫なのです。


時にブラックを過ぎて痛い描写も満載で、読む人を選ぶのは間違いありません。
しかしこれは最高に過激で暴力的で残酷で極悪な、最高の娯楽作品です。
そして同時に最高の反娯楽作でもあり、間違いなく傑作でもあるのでした。


邦訳版は黄色を大胆に使った表紙がクール!

ウォンテッド (ShoPro Books)

ウォンテッド (ShoPro Books)


以前にもご紹介したキック・アス』も、映画版と違うアンチヒーローものとして傑作です。

キック・アス (ShoPro Books)

キック・アス (ShoPro Books)


こちらも以前にご紹介した『スーパーマン:レッド・サン』も秀作です。

スーパーマン:レッド・サン (ShoPro Books)

スーパーマン:レッド・サン (ShoPro Books)