days of cinema, music and food

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Blueberry: Le Spectre aux balles d'or


殆ど動けないので床にて積読消化になります。
去年亡くなった世界的イラストレイターにしてBD(バンド・デシネ=仏語圏コミック)アーティストのメビウスこと、ジャン・ジローが画を担当した西部劇BD『ブルーベリー [黄金の銃弾と亡霊]』を読了しました。
彼のプロ・デヴュー・シリーズであり、代表作でもありますが、これが初邦訳。
後年、SFファンタシー系を描くときはメビウス名義を、リアリスティック系を描くときは本名のジャン・ジロー名義を使い分ける事になります。


私も含めて多くのジャン・ジローメビウス・ファンは、主にメビウス名義のSFファンタシーものばかりに触れて来ました。
しかしこのジャン・ジロー名義の西部劇は、リアリスティックでありながら、コミックならではの表現も楽しめるようになっています。


まずジャン=ミシェル・シャルリエの原作が面白い。
主人公のブルーベリーだけではなく、活きの良い小悪党どもが跋扈する世界。
物語の発端からは予想も付かない方向に、話が曲がりくねって行く冒険譚となって行きます。
そして何よりもジャン・ジローの画!
緻密でありながらユーモアのある線に触れるだけでも嬉しい。
メビウス名義の自由奔放さは潜めていますが、コマ割りも含めて普通のコミックのフォーマットに則っているものの、それでもはち切れんばかりに世界が、空間が、人物が活写されています。
これはもう眼福としか言いようがありません。
面白い物語に素晴らしい画が重なりあった時、時間を忘れて西部の荒野に没入してしまうのは当然でしょう。


そう、これは西部劇なのです。
本書には3編の物語が収録されていますが、どれも開拓者精神は左程感じられません。
人間の性格や変化するそれらの関係が中心で、しかも善悪の堺が曖昧な描写の数々は、アメリカ製よりもイタリア製のマカロニ・ウェスタンに近いように思えました。
それとエルモア・レナードの犯罪小説の世界も想起させます。
荒涼とした世界で騙し騙される男と男、男と女の物語は、下手すると殺伐としたものになりかねないものです。
しかしユーモアのある人物描写とジャン・ジローの画によって、とっつき易いものにもなっていました。
西部劇が苦手だという人にも、一読をお勧めしたい傑作集なのです。


残念なのは版サイズ。
25.8mm x 19mmと小さくは無いのに、それでもジャン・ジローの画とびっしり書かれた吹き出しを読むのには小さ過ぎます。
せめてA4サイズで出してくれたら…とも思いますが、余り売れそうもないジャンルだけにそれは贅沢というものでしょう。
ここはまさかの翻訳出版を喜びましょう。


願わくば、まだまだ未訳のブルーベリーものが翻訳出版で読めますように。


ブルーベリー [黄金の銃弾と亡霊]

ブルーベリー [黄金の銃弾と亡霊]