days of cinema, music and food

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レッドソックス・ネーションへようこそ


昨年、『怪物と赤い靴下』で楽しませてくれた李啓充・著を読み終えました。
300ページありますが、すらすら読めてしまいます。


私が『週間文春』立読みしていた最大の理由は、この人の書くスポーツ・コラム『大リーグファン養成コラム』にありました。
著者自身がボストン在住で、当然ながらレッドソックス・ファンなのですから、ご当地での風評最新情報も読めたのも大きかった。
それが連載打ち切りになって残念無念、単行本化されないものか・・・と思っていたら、捨てる神あれば拾う神ありとばかりに、いつの間にか単行本化されていたのです。


内容は全部で5章に分かれています。

  • レッドソックス・ネーションへようこそ
  • ”悪の帝国”ヤンキースの逆襲
  • 奮闘する日本人メジャーリーガー
  • 大リーグ ちょっといい話
  • 薬物汚染の深い闇


私が李啓充の文章が大好きなのは、軽妙でリズミカル、しかし芯(知性、とも言い変えられます)を外さない正統派ユーモアのところです。
そのユーモアも、わざと面白おかしくではなく、マジメな顔してすっとぼけた事を言うタイプ。
読んでいてくすくす笑ってしまいます。
それに単なる感情論ではなく、数字を引用しての分析結果等が多いのも特徴で、とにかく面白い。


連載時に読んでいた記憶のあるものもあれば、面白かったのに外されたものもありますが、単行本としての満足度は高い。
どのコラムも、笑い、嘆き、自虐、悲しみ、怒りと様々な感情を交えながらも、上っ面だけではなく、真剣にベースボールへの愛があります。
『怪物と赤い靴下』でも触れられていた、小児ガン研究基金である「ジミー基金」で大リーグの良心に触れ、私も大好きなレッドソックスの大投手カート・シリングの有名な「血染めのソックス」登板の男気に感激し、バリー・ボンズらのステロイド疑惑に怒る。
特にジミー基金や薬物汚染に関しては、著者自身が医者ということもあって、真剣な眼差しが印象に残ります。


日本では残念ながら、スポーツという遊戯はフィールド内に押し込めるか、もしくは過剰な「人間ドラマ」としての扱いとなる場合が多く、文章で戯れるという場合が少ないように感じられます。
著者自身も、アメリカ伝統の知的でユーモラスなスポーツ・コラムへの憧れがあったようですが、その日本版は見事成功しています。


もっとも、日本ではスポーツは明治以降に輸入された際に、国を強くする為の「体育」として根付き、純粋な娯楽・趣味としての定着度合いが、まだまだアメリカとは格段に違います。
知的かつユーモラスなスポーツ・コラムも、その国民のスポーツに対する知性に比例するものと思えば、日本の場合はまだまだこれから、なのではないでしょうか。
それでも私は、もっとこういった文章を読みたいと思います。


レッドソックス・ネーションへようこそ

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