days of cinema, music and food

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新・イチロー伝説


昼休みに何気に寄った書店で見つけてしまったので、即購入しました。
大リーグ本、芝山幹郎、それに以前から興味のあったロバート・ホワイティングの共著という要素がありますから。
実際には2人の対談本でしたが、大リーグ大好き、且つデータも大好きといった内容なので、面白い面白い。
大リーグの歴史とは、やはりデータの蓄積でもありますね。


3年ほど前に、芝山幹郎の大リーグ本『大リーグ二階席』をご紹介しました。
そのときも書きましたが、同書を読んだときに印象に残ったのは、イチローに狂気を見つけていたこと。
今回、イチローと並べられて対談に出てくるのが、タイ・カッブテッド・ウィリアムスジョー・ディマジオといった往年の名選手なのですが、彼らの常識外の行動と一種の狂気も面白い。
史上最悪の人格者カッブなどネタの宝庫ですが、やはり常識外れの記録を残す人は、行動もどこか常識外れなのでしょうか。
常に「ゲームに出続けられ、上々の成績を残さなくてはならない」という不安と緊張感を持ち続けるプレイヤーにとっては、切磋琢磨を極めることに注力するのでしょうから、それも当然なのかも知れません(広島カープの名選手である山本浩二が、毎シーズン開始前に「今年はヒットを1本も打てないかも知れない」と不安に苛まれていた、という話を思い出しました)。


芝山幹郎らしい指摘は、「バッドボール・ヒッターは面白い」という点。
とんでもない所に来たボールを打ち返してしまうバッドボール・ヒッターは、「審判が見たストライクゾーンやピッチャーから見たストライクゾーンだけではなく、バッターの側から見たストライクゾーンを持って」いて、「非常に対応力があって、反射神経が鋭くて、なおかつ柔軟にいろんな球が打てる」。
つまり自らのストライクゾーンに引き寄せて打ってしまう、イマジネーションに富んだプレイヤーだから面白い、という趣旨でした。
なるほど。
スポーツは人類が生んだ文化です。
だったら想像力に富んだプレイが面白いに決まっている。
何気にスポーツの本質を的確に捉えていて感心しました。


そう言えば、本書内でも触れられているように、故デヴィッド・ハルバースタムもスポーツの名著を残しています。
彼ほどの名ジャーナリストもスポーツ・ジャーナリズムに名を残している。
これはスポーツに対する文化意識の違いなのでしょう。
となると、先だって落選した2016年のオリンピック東京開催に対して、自国での開催の支持率が他国に比べて日本が相当に低かった理由も頷けます。
国民のスポーツに対する意識の低さが、ジャーナリズムの意識の低さにも繋がっているのでしょう。
これはスポーツを人生を豊かにする「文化」ではなく、「教育」や「単なる娯楽」としか意識していない側の問題とも言えます。


ロバート・ホワイティングは少年時代に名選手に入れ込み、あるいはジャーナリストになってからも実際に見たり会ったりしているだけあって、彼らの印象について述べる際の重みがありますね。
ただこの対談は、恐らく日本語でされたのでしょう。
いくら日本語が上手とは言え、言葉のハンディを感じました。
英語ペラペラな芝山幹郎なのだから、英語の対談を和訳しても良かったかも知れませんね。


日米の文化論的なものに突っ込むことは無く、飽くまでも野球ファンとしての視点に重きを置いていますが、これはこれで良いと思います。
気軽に読める本として、野球好き、スポーツ好きにはお薦めの本です。

新・イチロー伝説 (ベースボール・マガジン社新書)

新・イチロー伝説 (ベースボール・マガジン社新書)