days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Hurt Locker



昨年末も応援していたように、以前から非常に期待していたキャスリン・ビグローの新作『ハート・ロッカー』を観に行ってきました。
彼女の映画とのスクリーンでの再会は、2003年の『K-19』以来ですから、相当に久々ということですね(当時のレヴューはこちら)。
ですから今回の再会を楽しみにしていました。
ららぽーと横浜内のTOHOシネマにて、平日金曜の朝9時15分からの回は30人程度の入りでした。
朝、子供を保育園に送ってから行ったので、かなりギリギリで上映に間に合ったのが幸い。
何しろ、朝食のホットドッグなど持って席に着くや否や、配給会社のブロードメディアのタイトルがスクリーンに映っていたくらいですからね。
ここまでギリギリだったのは初めてです。


さて映画はというと、上映中「こんな映画は観たことがない」と思わず脳内で呟いてしまいました。
観客を戦場に送り込む、いや引きずり込むかのような豪腕演出。
結論から言うとキャスリン・ビグローの、これは最高傑作でしょう。
彼女の得意分野であるアクションとスリルの盛り上げは非常に上手く、その線でぐいぐい押す前半は特に快調です。
色々な状況下での爆弾処理をリアルかつスリリングに描いています。
中盤に用意されている敵と1kmほど離れての狙撃戦も緊張感満点。
あの巨大なライフルは、『マイアミ・バイス』で凄まじい威力を発揮していたライフルと同じ物なのでしょうか*1
その後の男同士の友情の殴り合いもまた、ビグローらしい。
相変わらず男にばかり興味がいっていて、女には無関心な演出です。
娯楽戦争アクション映画としても観られるようになっています。


マルコ・ベルトラミの音楽は西部劇調で、これは意図したものでしょう。
悪党どもがいる西部の町を歩くように、主人公ジェームズ二等軍曹もまた、分厚い防護服を着てイラクの町を進む。
このような演出から、本作を単純な米兵礼賛映画と決め付けるのはいささか気が早いでしょう。
主人公たちのハードボイルドな描写から冷静に見極めれば、傷を負った者たちの映画だと分かります。


ただビグローの映画らしく、全体の構成に難があるのも事実。
トーンが整えられていた前半に比べ、後半では話運びが乱れています。
無残な人間爆弾のエピソード以降がいささか危なっかしくなるのは、前半同様だと単調さに陥ると危惧して策を弄した結果、それが余り上手く行っていないのでは、と思いました。
それでもドラマ部分に関して言えば後半も評価できます。
戦場でしか生きられない者、戦場で情緒不安定になる者、それぞれが真っ当な反応でしょう。
劇中のクライマクスは、ハンビーでの会話場面だと思いました。


主人公3人を演じる役者たちもそれぞれ好演。
特にジェレミー・レナーは『28週後...』で印象に残っていたくらいで、後の映画、例えば『スタンドアップ』などの役は記憶に残らないものでしたが、本作ではなかなか良かった。
後は知っている役者はというと、ガイ・ピアースデヴィッド・モースレイフ・ファインズといったところで、それぞれ出番が短いものの、印象的な役を演じています。
エヴァンジェリン・リリーは『LOST』を観ていないので知らなかったのですが、やはり重要な役。
出番が短くとも重要な役には名前と顔を知られた役者を配していて、それは成功しているように思えました。


16 mm撮影の35 mmブローアップということで、かなり荒れた映像。
撮影もドキュメンタリ・タッチで、臨場感満点。
サウンドは強烈です。
腹に響く爆発音や銃撃音など、重低音もあるにはありますが、それ以上に繊細なデザインに耳が行きます。
冒頭の爆弾処理場面。
静けさが流れる街中で、カラカラと落ちる小石の音が緊迫感を盛り上げます。
繊細かつ大胆なデザインが素晴らしい。


ハート・ロッカー』は観終えた後も脳に覆い被さり、まとわり付いて離れない傑作です。

*1:バレットM82という対物ライフルで、やはり『マイアミ・バイス』や『ロボコップ』に登場したもののようです。参照:Wikipedia