days of cinema, music and food

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Lincoln


スティーヴン・スピルバーグの新作『リンカーン』を鑑賞しました。
ゴールデンウィークの土曜日、公開3週目の朝9時40分からの回、105席の劇場は8割がたの入りです。
男女比は半々くらい、年齢層は高めでした。


1865年1月。
再選され2期目の大統領となったエイブラハム・リンカーンダニエル・デイ=ルイス)は苦境に立たされていました。
奴隷解放に対する賛否で国を二分して起きた南北戦争は4年目となり、大勢の死者が出ていたのです。
リンカーン奴隷制度禁止の為には憲法の修正が必要と考え、周囲の反対を押し切って憲法修正第13条の議会での可決を目指そうとします。
しかし敵政党である民主党の反対は根強く、リンカーンは参謀シーワード(デヴィッド・ストラザーン)らに議会工作を指示します。


もちろん、昨年のリンカーン/秘密の書』の続編…ではないです(^^
ここ数年のスピルバーグ作品で1番良かった映画でした。
納得したのは『ミュンヘン』以来でしょうか?
成功の要因の1つは、正統派の散漫な伝記映画としたのではなく、議会での駆け引きを中心とした政治映画にした事。
しかもタイムリミット付きの。
これがかなり面白いのですね。
政界が舞台とあって登場人物が多いのですが、知った役者達がぞろぞろ出て来るので覚えやすい。
こういうのは大事です。
しかし髭面が多いですね!
驚きはロビイストの1人役ジェームズ・スペイダーです。
かつての退廃美男子の面影はすっかり無く、髭でにこにこ太っていて、でも飄々とした好演。
細身のジョン・ホークスとの取り合わせも良かった。
議会の重鎮にハル・ホルブルックトミー・リー・ジョーンズらを起用。
特にジョーンズは儲け役です。
でもまぁ、やはりデイ=ルイスは凄かったですよ。
どうせまたデイ=ルイスでしょう…と近年の彼の作られた強面迫力系にやや食傷気味だったので、これは嬉しい予想外。
高めの声の優男に見えて、自らの信念の実現の為には手段を選ばず、部下にハッパ掛けるときは厳しい多面的という、面白くも素晴らしい役と演技でした。
トニー・クシュナー脚本も上手いのでしょうが、これにはヤラれました。
カリスマティックとはこの事。
さすがデイ=ルイスです。


スピルバーグの演出は堂々たるもので、真っ向勝負の議会ドラマというか政治スリラーに仕上げています。
後半はハラハラさせて盛り上げるのですよ。
こういうのを観ると、やはりスピは基本的にスリラーの作家だと思います。
ドラマはそんなに上手くないですからね。
良い場面も多かった。
技術に長けたヴェテラン監督の健在ぶりは嬉しく思います。
ヤヌス・カミンスキーのフィルム粒子が粗い光と影の映像も印象的。
音響の使い方(ベン・バート担当)も上手い。
ジョン・ウィリアムスの音楽は柔らかい音色のトランペット・ソロが良かったでしょうか。


そしてこれは紛れもなくアメリカ映画らしい映画だと思いました。
政治に夢を抱いている、政治に希望を抱いているという点で。
また、言葉を重要視するという点で。
これも昨年、柴尾さんと話に出たのですが、多民族国家ならではなのかも知れないなぁ。


気になったのは、本編前にスピルバーグから日本の観客に奴隷制度と南北戦争についての簡単な解説がある事。
あれって必要なのでしょうか??
ワルキューレ』ではヒトラーナチスドイツについての解説が付いていましたが、どちらも義務教育で習う内容の筈。
そんなのも分からない観客はそもそも対象外だと思うのですが。
でも興業側としては恥も外聞もなく観客サーヴィスしたいという事なのでしょうか。
分からないという観客が多いとして、そっちの方が恥ずかしいですよ。
ひょっとしてゆとり世代が対象なのか???
謎なのですよね、この件は個人的に…