days of cinema, music and food

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Get Out

”Get Out”
今頃ですが、11月5日に観て来た『ゲット・アウト』の感想をこちらにも書いておきます(Instagramでは掲載済み)。
先日のアカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞した映画でもあります。


黒人カメラマンのクリス(ダニエル・カルーヤ)は、白人の彼女ローズ(アリソン・ウィリアムズ)から家族に紹介したいと言われる。
クリスは余り気乗りがしないが、父はオバマ支持者で人種など気にしないからと説得され、田舎にあるアーミテージ家を訪れる。
ローズの両親弟から温かく迎えられたものの、屋敷の使用人は皆黒人だし、その様子もどこかおかしい。
週末に大規模な客人を迎えてのパーティが開かれ、やがて戦慄すべき真相が明らかになる。


これが監督デヴュー作というジョーダン・ピールは元々コメディアン。
本作では自分で脚本も書いており、こんな逸材がいるのかと驚かされる。
序盤から不穏さで観客を引き付けつつ、丁寧な伏線を張りながら後半は奇想天外なホラー展開へとなだれ込む。
人種差別ホラーというジャンルは初めて聞いたが、なるほどそう言って良いだろう。
あちこちに白人による黒人への類型的な羨望=偏見(「黒人は肉体的に強い」「黒人はスポーツが上手い」等々)を散りばめており、そこにはリベラルな白人富裕層の偽善が描かれている…のだが、更にそれらが実は…という後半の捻りに繋がるというのが楽しいし、凄い。
単純に差別ネタとして提示するだけではなく、物語の展開に直結するようになっているのだから、非常に芸が細かいのだ。
このパズルのように緻密な脚本を書くとき、ピールはほくそ笑んでいたに違いない。
しかも脚本家としてだけではなく、監督としての実力も素晴らしい。
手際よく物語を進めながら、不安や緊張、ユーモア、カタルシスも忘れず、最後にはあぁ面白い映画を観たな、と思わせてくれるのだ。
役者達もこの映画の世界構築に貢献している。『ゲット・アウト』は極めて上質の政治的な映画であり、それ以前に娯楽ホラー映画の傑作である。