days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Detroit

”Detroit”
映画『デトロイト』を鑑賞しました。
1967年、アメリカ/デトロイト市。
市の中心部に位置していた黒人たちの低所得層住宅地帯で無許可のバーが摘発されたことから、日頃の白人警官たちによる圧政に不満を募らせていた黒人たちの怒りが大爆発し、アメリカ史上最悪と言われるデトロイト暴動に発展する。
その最中に警官らによる尋問・拷問・殺人が起きたアルジェ・モーテル事件の全貌とその余波、被害者たちの精神的肉体的な傷などを描いた、キャスリン・ビグローの硬派な大力作。


大暴動を俯瞰的に描き始めた映画は、やがて個々人に焦点が合っていきます。
4人組ソウルグループ、ザ・ドラマティックスの看板歌手ラリー(アルジー・スミス)と友人フレッド(ジェイコブ・ラティモア)、警備員メルヴィン(ジョン・ボイエガ)らに。
そして戦慄すべきモーテル事件へと突入して行くのですが、手持ちカメラを使ったビグローの演出は序盤から緊張と迫力が満点。
ドキュメント・タッチの演出も効果的で、観客がその場に居合わせたかのような臨場感に溢れています。
特に戦慄すべきはモーテルでのシークェンスです。
登場人物も観客にも逃げ場のないリアルタイム演出となっており、並のホラー映画も裸足で逃げて行くような衝撃的なもの。
加害者となる黒人差別の若い警官フィリップ役ウィル・ポールターも熱演です。
近年のビグローの相棒マーク・ボールの脚本による事件の再現は、生存者たちからの証言により再構成されたそうですが、こんなことが許されるのかと言いたくなります。
しかし力の入りようが分かるものの、延々と数十分にも渡る場面が続くので、場面終わりの方は少々緊張感が落ちて来たように思いました。
それでも強烈なのは間違いなく、被害者たちがその後も打ちのめされてしまったのも、観客に十分伝わる出来栄えです。


現実世界では必ずしも正義が下される訳ではないし、失われたものも戻って来ない。
1967年に起きた事件なのに、50年後の現代アメリカでも白人警官による黒人殺害は起き続けている。
人種差別の根深さが映画と現実がリンクして、暗澹たる思いにさせられました。
同時に、自分たちもいつこのような理不尽な暴力に巻き込まれないとも限らない、とも感じられたのです。
それでも映画は最後に歌に救済を見付けて静かに終わります。
犠牲者たちへの鎮魂歌として。


気軽に観られるような映画ではないのですが、是非お勧めしたい力作です。