days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Call Me by Your Name

”Call Me by Your Name” poster
今年のゴールデンウィークは映画を観まくりますよ!
ということで、『君の名前で僕を呼んで』を観て来ました。


1983年の北イタリア。
避暑地の別荘に今年もやって来た17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)は、考古学教授の父と何か国語も話す母の元で育ち、楽器をたしなみ、何か国語も話せる知性豊かな少年です。
毎年、別荘に父のアシスタントとして呼ばれる学生が、今年はオリヴァー(アーミー・ハマー)でした。
知的で教養があり、明るく自信に満ちたオリヴァーに最初は反発するエリオでしたが、やがて2人は惹かれあって行きます。


ひと夏の青春ものですが、美しい役者たちと映像とでもって、監督ルカ・グァダニーノは繊細な演出で2人の心情を描き出しています。
ですが私が1番感銘を受けたのは、ラスト近くの父役マイケル・スタールバーグの演技でした。
彼が息子に話す内容もさることながら、スタールバーグが演じた愛情と知性と優しさに思い溢れた姿は、父親像の理想形でしょう。
巨匠ジェームズ・アイヴォリーの脚本も素晴らしい。
ラストの長回しに耐えられるティモシー・シャラメの演技にも驚かされました。
凄い逸材がいたものです。
このラストショットで『白い家の少女』のジョディ・フォスターを思い出したのは、私だけでしょうか。

Avengers: Infinity War

Avengers: Infinity War
ゴールデンウィークが始まりました!
ゴールデンウィークと言えば映画です。
よってこの9連休には映画を観倒しましょう。
1本目は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』です。


宇宙の全生命体の半分を消し去ろうという野望に燃えるサノス(ジョシュ・ブローリン)に対して、アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)、キャプテン・アメリカクリス・エヴァンス)、雷神ソー(クリス・ヘムズワース)、ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)、ドクター・ストレンジベネディクト・カンバーバッチ)、スパイダーマントム・ホランド)、ブラックパンサーチャドウィック・ボーズマン)らアベンジャーズの面々に、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシークリス・プラットゾーイ・サルダナブラッドリー・クーパーデイヴ・バウティスタヴィン・ディーゼル)らが合流して立ち向かう。


2時間半弱の上映時間中、圧倒的スケールとスピードで怒涛のように突き進み、衝撃的な展開で観客を背負い投げする。
それが本作です。
そもそも主人公が…いや、やめておきましょう。
内容を知らずに観た方が楽しめますから。
そして過去のマーベル映画に親しんで来た者ほど、打ちのめされるでしょうから。
善悪について、そしてヒーローとは何かという命題を、アメコミヒーロー映画のフォーマットの中でもっともキツい形で突きつけた、作者たちの度胸を買いたい。
また如何にも超大作らしい大味な作りではなく、1つ1つ丁寧な演出にも好感を抱きました。
アンソニー・ルッソジョー・ルッソの兄弟は、マーベル映画では『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に続く3本目の監督ですが、毎回趣向を変えて来ていて、またそれが成功しているのが凄いです。


IMAX 3Dは立体感抜群、音響も素晴らしい。
MX4D 3D上映では激しくぐらんぐらんと椅子が動くので、カップに蓋が無いビールは要注意です。

Get Out

”Get Out”
今頃ですが、11月5日に観て来た『ゲット・アウト』の感想をこちらにも書いておきます(Instagramでは掲載済み)。
先日のアカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞した映画でもあります。


黒人カメラマンのクリス(ダニエル・カルーヤ)は、白人の彼女ローズ(アリソン・ウィリアムズ)から家族に紹介したいと言われる。
クリスは余り気乗りがしないが、父はオバマ支持者で人種など気にしないからと説得され、田舎にあるアーミテージ家を訪れる。
ローズの両親弟から温かく迎えられたものの、屋敷の使用人は皆黒人だし、その様子もどこかおかしい。
週末に大規模な客人を迎えてのパーティが開かれ、やがて戦慄すべき真相が明らかになる。


これが監督デヴュー作というジョーダン・ピールは元々コメディアン。
本作では自分で脚本も書いており、こんな逸材がいるのかと驚かされる。
序盤から不穏さで観客を引き付けつつ、丁寧な伏線を張りながら後半は奇想天外なホラー展開へとなだれ込む。
人種差別ホラーというジャンルは初めて聞いたが、なるほどそう言って良いだろう。
あちこちに白人による黒人への類型的な羨望=偏見(「黒人は肉体的に強い」「黒人はスポーツが上手い」等々)を散りばめており、そこにはリベラルな白人富裕層の偽善が描かれている…のだが、更にそれらが実は…という後半の捻りに繋がるというのが楽しいし、凄い。
単純に差別ネタとして提示するだけではなく、物語の展開に直結するようになっているのだから、非常に芸が細かいのだ。
このパズルのように緻密な脚本を書くとき、ピールはほくそ笑んでいたに違いない。
しかも脚本家としてだけではなく、監督としての実力も素晴らしい。
手際よく物語を進めながら、不安や緊張、ユーモア、カタルシスも忘れず、最後にはあぁ面白い映画を観たな、と思わせてくれるのだ。
役者達もこの映画の世界構築に貢献している。『ゲット・アウト』は極めて上質の政治的な映画であり、それ以前に娯楽ホラー映画の傑作である。

Black Panther

”Black Panther”
ブラックパンサー』をIMAX 3Dで鑑賞しました。
最近観た中では、最後まで3D映像の奥行き感が最も持続する映画でした。


アフリカのど真ん中にある小国ワカンダ。
世界とは国交もなく、農業国で経済も乏しいと思われていた国だが、地球上ではここでしか採掘されない金属ヴィブラニウムのお陰で、実は世界で最も科学が発達した豊かな国だった。
父王の急な死去により王位を継承した王子ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)は、ヴィブラニウム製スーツと肉体増強効果があるハーブにより、国の守護者ブラックパンサーとなる。
そして長年ヴィブラニウムを狙っていた武器商人ユリシーズ・クロウ(アンディ・サーキス)の暗躍を発端に、国を揺るがす一大事が起こる。


アメリカでは文化史上の大事件とまでされている黒人アメコミヒーロー映画が、余り間を空かないで観られるのはありがたいことです。
そしてこれが予想と全く違う映画になっていたのは更に喜ばしいものです。
単純明快な娯楽ヒーローアクション映画でありながら、複雑で余韻も残す仕上がりになっていました。


前半はヒーロー映画のフォーマットに沿っています。
007ばりの新兵器や、ブラックパンサーが大活躍のアクションが豪快で、見ていてとても楽しい。
初の娯楽アクションを手掛けるライアン・クーグラーの演出も見応えがあります。
だが悪役のエリック・キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)という若者が暗躍するようになると、映画のトーンが変わるだけではなく、物語に大きな命題を与えられてきます。
とにかく内容盛りだくさんの映画で、クーグラーとジョー・ロバート・コールによる脚本は、よくもここまでぎゅうぎゅうと詰め込んだものだと感心させられました。
そしてこれは何よりも、観終えた後にハッピーな気分になれる映画です。
ヒーローとは悪と戦うだけではない。
持てる力で世界に対してどのような影響力を与えられるのか。
そう答えを出している映画になっているのです。
そして他者への良き影響は映画の中のヒーローだけではなく、私たちのような一般人でもスケールは小さくとも出来るのではないか、と思わせます。
小さな勇気を与えてくれる。
だから鑑賞後にハッピーになれるのです。


登場人物の殆どが黒人ばかりなのが珍しいハリウッド大作アクションだし、同時に人物の多くが聡明で意志の強い女性なのも珍しい。
個性的な彼女たちの活躍が映画の見所の1つにもなっています。
特に王の親衛隊隊長オコエダナイ・グリラ)は、戦闘能力が高い無双振りだけではなく、映画の最初から最後まで一貫してブレない、凛々しい人物として印象に残りました。


またワカンダの超文明国家振りのデザインも素晴らしい。
建物やメカ類、衣装の数々まで、色彩含めて目を楽しませてくれます。
これらは革新的でさえあります。
ルートヴィッヒ・ヨーランソンによる音楽も、アフリカ色が豊か、かつダイナミックでとても良かったです。

Detroit

”Detroit”
映画『デトロイト』を鑑賞しました。
1967年、アメリカ/デトロイト市。
市の中心部に位置していた黒人たちの低所得層住宅地帯で無許可のバーが摘発されたことから、日頃の白人警官たちによる圧政に不満を募らせていた黒人たちの怒りが大爆発し、アメリカ史上最悪と言われるデトロイト暴動に発展する。
その最中に警官らによる尋問・拷問・殺人が起きたアルジェ・モーテル事件の全貌とその余波、被害者たちの精神的肉体的な傷などを描いた、キャスリン・ビグローの硬派な大力作。


大暴動を俯瞰的に描き始めた映画は、やがて個々人に焦点が合っていきます。
4人組ソウルグループ、ザ・ドラマティックスの看板歌手ラリー(アルジー・スミス)と友人フレッド(ジェイコブ・ラティモア)、警備員メルヴィン(ジョン・ボイエガ)らに。
そして戦慄すべきモーテル事件へと突入して行くのですが、手持ちカメラを使ったビグローの演出は序盤から緊張と迫力が満点。
ドキュメント・タッチの演出も効果的で、観客がその場に居合わせたかのような臨場感に溢れています。
特に戦慄すべきはモーテルでのシークェンスです。
登場人物も観客にも逃げ場のないリアルタイム演出となっており、並のホラー映画も裸足で逃げて行くような衝撃的なもの。
加害者となる黒人差別の若い警官フィリップ役ウィル・ポールターも熱演です。
近年のビグローの相棒マーク・ボールの脚本による事件の再現は、生存者たちからの証言により再構成されたそうですが、こんなことが許されるのかと言いたくなります。
しかし力の入りようが分かるものの、延々と数十分にも渡る場面が続くので、場面終わりの方は少々緊張感が落ちて来たように思いました。
それでも強烈なのは間違いなく、被害者たちがその後も打ちのめされてしまったのも、観客に十分伝わる出来栄えです。


現実世界では必ずしも正義が下される訳ではないし、失われたものも戻って来ない。
1967年に起きた事件なのに、50年後の現代アメリカでも白人警官による黒人殺害は起き続けている。
人種差別の根深さが映画と現実がリンクして、暗澹たる思いにさせられました。
同時に、自分たちもいつこのような理不尽な暴力に巻き込まれないとも限らない、とも感じられたのです。
それでも映画は最後に歌に救済を見付けて静かに終わります。
犠牲者たちへの鎮魂歌として。


気軽に観られるような映画ではないのですが、是非お勧めしたい力作です。

2017年映画総括


新年あけましておめでとうございます。相変わらず公私ともに立て込んでおり、ブログの更新も中々出来ませんが、今年も宜しくお願いします。


2017年は劇場に68回行って、65本の映画を観た。2016年に鑑賞済みのものもあったし、『カリオストロの城』のように、過去に観た映画もあったけれども。今の生活環境からすると、劇場で見逃したから家で改めて時間を取って観よう、というのは中々難しい状況だ。だから劇場で見逃したらそれっきりになる可能性が高い。文字通りの一期一会だ。その意味でも、2017年も良い映画、楽しい映画に数多く巡りあえて良かった。


以下、観に行った映画のリストだ。


■2016年劇場鑑賞リスト


家族全員で行った映画は17本、子供たちとのみ行ったのが3本もある。昨年はそれぞれ9本、3本だったから、両親が映画好きとは言え、かなり映画を観ている子供たちと言えよう。4歳の息子は怖い場面になると「こわい〜」と声を上げたりすることもある。だが『最後のジェダイ』のように、2時間半強の映画でも最後まで座って観ていられるのはありがたい。また2018年もこの子たちと楽しく映画が観られますように。
以下のそれぞれのリストは鑑賞順だ。


■かなり良かったし、大好きな映画


ここでは『ルパン三世 カリオストロの城 MX4D』(今更だが名作だ)および、2016年に観て感銘を受けた『この世界の片隅に』は除いている。
私の中では『沈黙 −サイレンス−』と『メッセージ』が断トツだ。どちらも明るく楽しい映画ではないけれども、前者のマーティン・スコセッシの豊穣な語り口、後者のドゥニ・ヴィルヌーヴのミステリアスな語り口に魅了された。共にテーマの掘り下げも良かった。ヴィルヌーヴには『ブレードランナー 2049』もあって、この1年ですっかりスター監督になったのに驚く。
周りでは賛否両論だった『ラ・ラ・ランド』も大好きな映画だ。雑な所は目立つし欠点も多いけれども、楽曲と映像の盛り上がりで最高に幸福な体験が出来た。
驚いたのは『ベイビー・ドライバー』と『エル ELLE』だ。どちらもこちらの予想を裏切る展開で、とても面白かった。エドガー・ライトポール・ヴァーホーヴェンという、中堅どころ、ヴェテランが元気で嬉しい。
スパイダーマン:ホームカミング』のあっけらかんとした明るさ、原作のホラー要素中心に脚色された『IT/イット それが見えたら、終わり』のこれでもかの怖がらせよう精神も楽しかった。
米ソ宇宙開発競争の知られざる裏側を描きつつ、サクセスストーリーにまとめ上げた『ドリーム』の気持ち良さも印象に残る。
ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督自身による脚本と演出の語り口は、特筆ものだ。


■かなり良かったし、好きな映画


■かなり楽しませてもらった映画


■楽しませてもらったとの印象がある映画


2016年に続いて、2017年も質の高いホラー映画が楽しめた。それも今まで余り知らなかった監督作品が多いのだ。『IT/イット それが見えたら、終わり』のアンディ・ムキエスティ、『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールらは今度も注目したい。一方、大ヴェテランのリドリー・スコットは、『エイリアン:コヴェナント』でシリーズ最高の血のりを披露。2017年もっともヘンテコな映画だった『ネオン・デーモン』のニコラス・ウィンディング・レフン、『パーソナル・ショッパー』のオリヴィエ・アサイヤスと、中堅どころもホラー趣味を披露して楽しませてくれた。


2年連続のMVPは近所のM田さんだ。2016年の19本を凌ぐ25本も深夜鑑賞に御付き合い下さった。帰路での鑑賞したばかりの映画への突っ込みが楽しみの1つにもなっている(2人ともツッコミ担当)。いつもありがとうございます。

ブレードランナー究極読本 & 近未来SF映画の世界

『ブレードランナー究極読本』
発売日は昨日でしたが、事前予約していたAmazonから本日届きました。
Facebookを見ると、予約していた友人らの手元にも届いたようです。
監修はこの人・中子真治さん。
1982年の『ブレードランナー』撮影現場に唯一、日本人ジャーナリストとして入っていた人です。
執筆陣には友人らもいて、嬉しくなります。


いきなり冒頭から中子さんによる留之助ブラスター開発記事から始まります。
留之助ブラスターとは、『ブレードランナー』でハリソン・フォード演ずる主人公リック・デッカードが使っていた、いわゆる「デッカード・ブラスター」のモデルガンです。
版権の問題で主人公リック・デッカードの名前や、映画の題名が使えず、中子さんが経営しているおもちゃ屋留之助商店(祖父から名前を頂いたもの)から名前を取ったモデルガンの、およそ10年にも及ぶ開発記録で凄い。
しかも詳細な文章とオールカラーで!
長年、デッカード・ブラスターのモデルガンが海外で発売される度に取り寄せ、その出来に不満足だったという奈中子さん。
その元に徳さんというモデルガン造形師が訪ねて来たときから、開発が始まります。
中子さんと徳さんの飽くなき情熱と技術力でもって開発されたブラスターは、幾度もバージョンアップを重ね、とうとう35年振りの続編『ブレードランナー 2049』で小道具として採用されるまでになったのです。
私も一度手にしたことがありましたが、重さも映画で使われた小道具と同じ1.2kgとずしり重く、かっこ良かったです。
つい最近、海外のメディアWiredで2049のプロップマスターが、「俺が1982年版のブラスターを入手して詳細にコピーしたんだ」と言っていて、中子さんが画像でもって詳細な反論をしていた、というミソが付いたのが残念ですが。
中子さんは先日開催されたトークイベント「ブレードランナー・ナイト3」でおっしゃっていたのは、「訴訟しろという人が何人もいたけど、それは別に良い。大好きな映画に自分が開発したモデルガンが使われて本望だ。それに今発売されている留之助ブラスターは、箱に『ブレードランナー 2049』とデカデカと書かれているしね!」とめげていない様子。
モデルガンを無償提供する代わりに、題名の使用許諾を得ていたのだそうです。
さすが商売人!


なぁんて、いきなり濃い話から始まる本書は、ロケ地探訪、バージョン違い、幻のエンディング数種、ポスターギャラリーなど、他では読めない話がてんこ盛り。
これは執筆陣のブレードランナー愛の成せる業です。
勿体無いので少しずつ読み進めましょう。
ブレードランナー』が好きな方にはマストアイテムです。



Amazonでは留之助ブラスターのミニチュア版が売っていました。