days of cinema, music and food

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Streets of Fire

Streets of Fire
ストリート・オブ・ファイヤー』デジタルリマスター版を鑑賞@チネチッタ
十数年振りのチネチッタでの映画鑑賞は、大好きな映画なのに劇場での鑑賞は初めて、かつライブザウンド初体験というものだった。1984年の映画なので大音量だと音割れなどしていないかと思っていたが、杞憂だった。冒頭でのライ・クーダーによるガンガン鳴るロックギター音楽の音色は、時代を感じさせるものの威勢が良く、特に中低域の太さが好ましい。高域だって時代を考えたら立派な物。この「ロックンロールの寓話」には、ライブザウンドの大音響は似つかわしかったと断言できる。


このウォルター・ヒルの今や代表作に数えられる映画は、劇場公開当時は世界的ヒットをした訳ではない。にも関わらず、未だにこうして根強いファンがいるのは不思議なものだ。今回のリバイバルで劇場で初めて観た人も多いはずだ。ギャングたちにさらわれたロッククイーンを取り戻すべく、元恋人で流れ者のガンマンが、仲間たちと一緒に救出に向かい、取り返しに再び街を襲ってきたボスと対決し、最後は去っていく。プロットはこれだけだ。よく言われているように、現代版アクション西部劇+恋愛もの+ロック映画という、ジャンルをまたがった作りになっている。そのどれもが定番のジャンルなのだが、それらが融合した映画は他に余り例が無く、それがこの映画を独自のものにしている。青春映画の側面もあるにはあるが、主人公の凄腕ガンマンで流れ者のトム・コーディが、20代の若者の割に常にストイックで冷静沈着なので、「青春」の持つギラギラ感は希薄だ。マイケル・パレは表情に乏しく、台詞も棒読みに近い。それでも結果的にトムという映画史に残るカッコ良い男になったのが面白い。とにかくスリーピング・アイの顔だけでも美しいのだ。


対する悪役であるギャング暴走族のリーダー、レイヴンを演じるウィレム・デフォーは、今や名優なのに、肌の艶以外は余り変わっていないように見えるのがまた凄い。デフォーはガリガリのイメージだが、ここでは胸板なんて分厚くてかなりガタイが良いし。瞬きをせず、常に不敵な笑いを浮かべて落ち着き払っており、威圧感満点だ。


もちろん、34年も前にダイバーシティを先取りした兵士マッコイ役エイミー・マディガンの好演は抜きに話せない映画だ。今回大画面で観て気付いたのは、彼女が映画に明るさをもたらしているということ。常に軽口をたたき、自らの怒りを隠さず、率直な女。いざとなると度胸満点で頼りになる女。この映画で1番人間味があり、かつ魅力的な人物だと言えよう。マッコイ役は当初はエドワード・ジェームズ・オルモスが想定されていたとのこと。もしオルモスが起用されていたら、それはそれで魅力的だったろうが、映画史には残らなかったろう。それだけマッコイという相棒は、革新的な人物だったのだ。


これが映画デヴューとなったリック・モラニス演ずる、ロッククイーンの現恋人兼マネジャーのビリー・フィッシュも、意外に男気があって印象に残る。趣味の悪いゴージャスなスーツと言ったら! この生地、柄の悪趣味さは、劇場の大画面ならではの発見だ(トムのアルマーニの衣装も、ラストで着ているシャツの襟が擦り切れているのを発見。これも大画面の恩恵である)。 彼ら彼女らに比べると、ダイアン・レイン演ずるロッククイーン役エレン・エイムは勿体無い。女を描けないヒルらしく、またヒル自身も彼女に余り興味が無いと見え、一本調子の描き方だ。単に上昇志向の身勝手な女に見えなくもないのだ。しかし、だ。この映画のダイアン・レインはひたすら美しい。役は20代前半か半ばの設定だろうが、実は撮影当時17歳の彼女が画面に映っているだけで、自然と目が行ってしまう。この美しさが映画に彩りを与えたのは間違いない。マイケル・パレダイアン・レインの美男美女カップルは、正に眼福なのだ。


ヒルの演出は端正でストイックでアップテンポ。全てが一筆書きのようにさっと描かれている。ドラマもアクションもそう。例えば映画冒頭。姉リーヴァが経営するダイナーに、街に戻って来たトムが入る。カウンターに着いて、ウェイトレスが淹れたブラックコーヒーをすするトム。リーヴァは他の客を相手にしていてトムに気付かない。そこにゴロツキどもが店に入って来る寸前に、リーヴァはトムに気付き、お互いに目と目を交わす。ここには一切の台詞がない。だがこの姉弟の関係を見事に描いている。この後、ゴロツキども相手にトムが腕っぷしの強さを発揮する、胸のすく活劇場面が描かれるのだが、これも時間にして数十秒だ。中盤にある敵のアジトに乗り込んでのエレン救出劇、終盤のレイヴン対トムの一騎打ちも、迫力はあるが、近年のアクション映画では考えられないくらいあっさりしている。アクション映画なのに人が1人も死なない、というのも理由としてあろう。だがヒルは元々こういう瞬間的なアクションを描く監督だし、思い返してみれば70年代80年代のハリウッド活劇の多くはこんなものだったのだ。特にこの映画は、アクション場面だけではなく、映画全体が停滞することなくアクションして活劇しているのだ。不足はない。


そしてそのあっさりは、映画の冒頭とラストに用意されている素晴らしいロックコンサート場面の布石だろう。冒頭の「ノーホエア・ファースト」、ラストの「今夜は青春」。大仰でドラマチックなジム・スタインマンによる2つの名曲は、それぞれ数分ずつある長めのもの。引っ張って引っ張って映画全体を盛り上げる。特に「今夜は青春」は映画のクライマックスに相応しい盛り上がりを見せてくれる。同時に街を去っていくトムを描き、彼には幸運にも相棒が出来たようだ。こういった明るさが映画を悲壮感とは無縁の仕上がりにしていて、映画の後味も良くしている。


大画面と大音響で是非楽しんでもらいたい傑作だ。